感情の波を増幅させる。

精神というくくり

今日は精神というくくりのお話。

凪に波を起こす

感情が激昂的に出現する方と、感情が抑えられていて、感情の波、起伏が乏しい方が、感情としての分別では介入にあたることが多いかなと思います。なので今日は後者の方々についてのお話です。

怒りたい時に耐え、泣きたい時に我慢し、悔しい時に黙り、悩んでいる時に考え続ける、そうして表出されることのなかった感情達はいつしか主張することもなくなり、平板化していきます。

感情は優劣はなく、みんな同じです。そのため怒りや悲しみを押さえつけていると、喜びや楽しさなども表現できなくなっていきます。都合のいい、人当たりのいい感情だけを都合よく出すなんてことはできないのです。

そうした方に出会ったときには私は波を起こしていきます。

プールの上で、板をゆらゆらと揺らすと、少しづつ波が立っていきますよね。そんな感じで毎日の平板化した感情を少しづつ増幅させていきます。

どんなことがあった、何を楽しいと感じた、その時どんな気持ちだった、その人に対してどう思う、と聞いていくこともありますし、こちら側が驚いたり笑ったりして見せ、感情を誘発していくこともあります。

その時に大切なのは言葉の遣い方なのですが、それはまた機会があればお話しすることとします。

しばらく波の起きていないプールはなかなか波が起きません。年齢を重ねるごとにプールの水は多くなるので、波は起きづらくなります。若年層は洗面器やお風呂場くらいの水の量であったりするので、比較的波が起きやすい印象を持っています。

歪んだ波

徐々に波が出現してきた時に色々な感情が出現してきます。怒ったり、泣いたり、笑ったり、楽しみを見つけたり、少しづつ変化してきます。それをなるべく増幅させていくので、前より落ち込みやすくなったな、と悪化を感じる支援者さんもいますが、「悲しい」「落ち込む」を他者に表現することは回復過程において非常に重要です。

その後行うヘルプサインを出す、という能力にも必要なので、悪くなったと思わずに見守っていて欲しいことを伝えています。

そして波がある程度増幅することに慣れた時、起きるのは歪みです。

波の曲線が、著しく崩れる箇所があります。それが一番抑圧されてきていて、その核となるエピソードがそこに埋まっていることが多いのです。例え話すぎて分かりづらいですよね。

この感情だけ、引っ張ってこれない、この関連の出来事になると突然感情が平板に戻る、そんなタイミングが出現してくるのです。

その付近をうろうろと偵察し、その波が起きない所を奥深くまで潜り確認していきます。

それはお互いにしんどいことではありますが、そのために精神科訪問看護をやっているので頑張りどきです。実は最初からある程度その核を目指すこともできるのですが、その方法はこちらの介入という新たな波を起こしてしまうので、訪問看護への嫌悪感が出現することもあり、難しいです。

すでに荒れ狂った波であればその気に乗じて核に触りにいくこともできるのだと思います。しかし、そんな時は入院適応であったりもするので、介入時期とは言えないかなと思っています。

まずは波を起こしながら、じっくり共に時間を過ごし、言葉の遣い方を学んでいきながら進んでいきます。

核になるエピソードは多数ある場合が多いですが、みんな繋がっているので、一つ探し当てると比較的他も見つかりやすい印象です。一番最初に見つけた核に触れていくことで、他の核も変化をしてきます。

向き合うことを起こす

核を見つけたら、じっくりそれについて話をしていきます。

嫌だと感じる時期は、向き合う時期ではないので行いませんが、気持ちの奥底で向き合いたいと感じ始めると、どんな話題を振っても核に近づく話題になっていくのがいつも不思議だなと感じながら話をしています。

一番抑えていた核の時の感情が溢れ出すには幾許かの時間が必要です。

泣くこと、恨みを話すこと、新たな情報を足して見方を変えていくこと、思い返しながら解釈を変容させていくこと、色々なことを歩いたり止まったりしながら行っていきます。

その際は非常に敏感なので、トラウマの再演にならないように微細な注意を払いながら言葉を選んでいきます。これまで積み重ねてきた時間でこちらが教えてもらった価値観や言葉遣い、エピソードや強みを組み合わせながら話をしていきます。

言葉一つ一つが心に 残る瞬間なので、息を呑む思いで一言一言を発しています。

そうして美しい曲線の波を作ることで、やっとこさ、自分の気持ちの波を乗りこなす日常で必要なレッスンが始まるのです。けれどそれより先にまずは、綺麗な波を作る、それが一番根底となるものです。だって、海底から補正しているんですから。

そんな私の根拠のない、精神というくくりのお話、でした。

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