今日は精神というくくりのお話。

気にできないこと
精神科に長らく入院していた人がいます、いろいろな事情により、適切な教育を受けることができなかった人がいます、症状の出現により、精神が発達する機会に立ち会うことができなかった人がいます。
そんな方々に訪問看護で出会う時、症状とは別に一般教養を知らないということがあります。
3桁からの足し算ができない、西暦が何かわからない、漢字が読めず書類の意味がわからない、役所に行かなきゃいけないけどどこに行ったらいいか分からない、そんな日常から困ることをサポートしていきます。
一つずつ、一つずつ、どうやって調べるのか、何を聞いてくるのか、どう書類を書くのか、ペットボトルはどうやって捨てるのか、インフルエンザの予防接種はどこで予約するのか、などなどを一緒に方法を話しながら、一緒に行なっていく、訪問看護のお仕事は多岐に渡ります。
日本で生きていくには、たくさんのハードルがあります。手紙送りましたよね、でも手紙は読めないんです。電話に出てくれないじゃないですか、電話はパニックになって出られないんです。そちらから連絡いただけないと困ります、連絡するタイミングとか、何言えばいいのか分からなくて連絡できないんです。それを「甘え」と呼ぶ人もいます。
私もそういった方の支援に入り、その生きづらさに身震いすることがあります。こんなに辛いのに、誰にも助けてもらえなかったのかと思うと、涙が出るくらい申し訳なくなるのです。
気付かせること
ですがそれを「代替」だけでは、本人の力を育てることにはなりません。エンパワーメントってやつがやっぱり大事になってくるのです。
それにはきちんと事実を伝えることが必要です。つい病気だからと伝えずにいるのは、私は差別だと思っています。分かる言葉で、理解できるように話す、それが私たちに課せられた専門職たる立ち振る舞いなのだと思います。
10年以上着ている服がボロボロだな…とこちらが思っても「着られるので、入院前からこれ着てました」と話すことを受け入れてしまう、むしろボロボロなことすら言いづらいと感じる時もあります。
だって社会生活で「その服ボロボロだね」なんて相手に言ったら失礼ですもんね。でもそれは、私たちが最初に接する社会だからこそ、言わなければなりません。
その服いつから着てるの?袖口ちょっとほつれているね。そういえば寒くなってきたけど冬服ある?それだけじゃ寒いんじゃないかな。ちょっと丈短くない?服買いに行くとしたらどこに行く?あ、試着とか確かに怖いよね、けどその服で冬は越せないんじゃないかなー、どうしよっか、買いに行く場所決めようか。何色が好き?この服とか似合いそうだよね。あ、予算いくらくらいにする?
とじわじわと、じわじわと伝えていくことが必要です。だって言わなきゃ恥をかくのは本人です。訪問看護に言われるならまだしも、初めてできた友人に言われたりしたら、とてつもなく悲しいじゃないですか。
なので、医療従事者としての立ち振る舞いの中に、当たり前のことを指摘する、ということは非常に重要な任務となります。
こんな感じで、約束の時間は守ったほうがいい、電話が来たら折り返すことが大事、鼻毛が出ているのは処理したほうがいい、季節にあった服装を勧める、一人で大声で話しているとみんなが驚く、仕事の途中で帰りたい時は一言かける、などなどたくさんのことを伝えていきます。
社会に穏やかに溶け込めること、それは利用者さん側のことをもありますが、支援してくださる方へ伝えていくことも多くあります。
やっと髪切ったんです、かなり勇気を出しました、話題にしてみてください。1時間は遅刻してたんですけど、最近10分くらいまで縮まったんですよ、頑張っています。洋服買ったんですけど、来ていく勇気がないみたいで、ちょっとコート着てきたらとか声かけてもらえますか。なんて、髪切ることは普通誰でもする、遅刻はしない、寒くなったら上着を羽織る、当たり前に自分はしていることですが、サポートが必要であることを知っていて欲しいのです。
ですが、自分の常識を普通だと思うこと、普通を強いてしまうこと、それは人間の心に必ずあります。その自分の「常識だと思っているもの」を通さず、利用者さん自身を見ることがとても大切な立ち振る舞いです。
気付かされること
それは私たちの「当たり前」「常識」「普通」が、当然に備わっているものではないと認識することが必要です。
そして備わっていないことを楽しむ姿勢も大切です。
社会にはまだまだ知らないことがあって、利用者さんが分からないこと、怖いこともたくさんあるのかもしれません。ですが、私たちはその窓を開けることができるし、一緒に外に出ることができます。
自分からしてみれば何度も見ている当たり前の景色でも、利用者さんの反応を目の当たりにすることで、とても温かい気持ちになることが多くあります。
あぁ、この人の世界はまだどんどん広くなるんだ、その圧倒的なパワーに胸が詰まる思いがします。
たくさんの楽しいことが待ってるよ、そう伝えるにはまず私たちがこの世界を楽しむことが大前提です。
普段私が見ていた世界は、そんなに輝いていたんだね、そう気付かせてもらえることで私も前に進めるのです。社会は、世界は、とても広いんですよね。
そんな私の根拠のない、精神というくくりのお話、でした。


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